東京地方裁判所 昭和49年(ワ)4706号 判決 1976年11月25日
原告 高橋善作
右訴訟代理人弁護士 児玉義史
同 高木義明
被告 国
右代表者法務大臣 稲葉修
右指定代理人 渡辺等
同 吉田克己
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、七二四二万八八六八円並びに内金六九〇四万五〇〇〇円に対し昭和四九年六月二二日から、及び内金三三八万三八六八円に対し昭和四九年一一月二七日から、それぞれ支払済みまで年五分の金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 担保を条件とする仮執行免脱宣言
第二当事者の主張
一 請求原因
1 (原告の本件土地取得)
原告は、昭和三六年一一月三〇日、別紙物件目録(一)及び(四)記載の各土地(以下、それぞれ「甲地」、「丁地」という。)を代金一〇〇万円で、その所有者であった訴外佐久間佑生(以下「訴外佐久間」という。)から買い受けてその所有権を取得し、昭和三七年七月一〇日までに右売買代金の支払を完了した。ところが、訴外佐久間が右各土地の所有権移転登記手続の請求に応じないので、原告は訴外佐久間を被告とする甲地についての所有権移転登記手続を求める訴を提起し、昭和五〇年一一月九日原告勝訴の判決が確定した。
2 (本件競売手続の経過)
(一) ところで、右の売買に先立ち、訴外初田修(その後、同訴外人の地位を訴外稲村亀次郎が特定承継した。以下「訴外稲村」という。)は、訴外佐久間に対する債務名義(元本六二万円)に基づき、同訴外人の所有していた甲地について、水戸地方裁判所麻生支部(以下「麻生支部」という。)に不動産強制競売の申立をし、右事件は、同支部昭和三三年(ヌ)第一一号として同支部に係属した(以下「本件競売事件」といい、その競売手続を「本件競売手続」という。)。そこで、麻生支部の担当裁判官は、昭和三三年七月二九日、甲地について強制競売開始決定をし、同年八月一日、水戸地方法務局鹿島出張所は同支部よりの嘱託に基づいて、甲地について強制競売申立登記をした。次いで、訴外井口哲(その後、同訴外人の地位を訴外筒井由松が特定承継した。以下「訴外筒井」という。)が、昭和三六年一一月二四日、訴外佐久間に対する債務名義(元本三〇万円)に基づき、同訴外人の所有していた甲地について、麻生支部に対し不動産強制競売の申立をし、右は同支部同年(ヌ)第一六号として同支部に係属したので、同支部は右事件を民訴法の規定に従い本件競売事件に記録添付した。
(二) 一方、原告は前記のとおり訴外佐久間から甲地及び丁地を買い受けていたが、訴外佐久間は右各土地の登記名義が依然として同人名義であったことを奇貨として、原告に無断で、甲地を別紙物件目録(二)及び(三)の土地(以下、それぞれ「乙地」、「丙地」という。)とに分筆したり、丁地を第三者に二重に売却するなどの行為をするに至った。そこで、原告は、昭和四一年二月、甲地について、訴外佐久間を債務者とする処分禁止の仮処分(以下「本件仮処分」という。)を、東京地方裁判所に申請したところ、同裁判所は、同月一八日処分禁止の仮処分命令をなし、同月一九日嘱託によりその記入登記がなされた。
(三) その後、本件競売手続には、昭和四四年八月一九日、訴外稲村が訴外佐久間に対する債務名義(元本一〇〇万円)に基づいてなした丙地に対する不動産強制競売の申立(麻生支部同年(ヌ)第一七号)が記録添付され、更に同年一〇月二七日には、訴外成沢喜三郎(以下「訴外成沢」という。)ほか七名の債権者による配当要求(配当要求債権の債権元本合計額一二五五万円)がなされた。そして、昭和四五年一〇月一日、麻生支部の裁判官訴外金子仙太郎(以下「金子裁判官」という。)は、丙地について、訴外大塚正のなした競買申出(競買価額八八〇万円)に対し、競落許可の決定(以下「本件競落許可決定」という。)をした。その後、本件競売手続の配当期日が昭和四六年一二月二四日と指定され、同日配当が実施されたが、配当要求債権者に対する配当金八三一万六一三二円(以下「本件配当留保分」という。)については配当実施が留保され、右金員は同支部において保管されていた。ところが、麻生支部の裁判官訴外石崎政男(以下「石崎裁判官」という。)は、昭和四九年三月四日、訴外成沢ら配当要求債権者に対し、本件配当留保分について配当を実施する旨を通知し、同月一一日及び一二日の両日に右配当要求債権者に対し、配当表の記載に従い右金員をそれぞれ交付した。
3 (本件競売手続の違法、担当裁判官の過失)
本件競売手続には次の各点について違法がある。
(一) 不動産強制競売手続において競売の目的物である不動産が数個存在する場合に、ある不動産の売得金をもって執行費用及び各債権者の債権に対する弁済をなすに充分であるときは、他の不動産については競落を許可すべきではないと解されるから、右の制限に違背し他の不動産に対してなされた競落許可決定はいわゆる過剰競売として違法な競売手続というべきである。
そこで、これを本件競売手続についてみると、
(1) まず、本件競売手続において配当に加えるべき債権は、別紙債権表1ないし3記載の債権及びその利息・遅延損害金のみであって、同表4ないし11記載の債権及びその利息・遅延損害金はこれを要配当債権として扱うべきではない。けだし、前述のとおり、本件競売手続の目的不動産である丙地(分筆前の甲地の一部)に対しては、昭和四一年二月一八日、原告を債権者とし訴外佐久間を債務者とする本件仮処分がなされ、同月一九日には右仮処分命令の記入登記がなされているところ、別紙債権表4ないし11記載の債権についてなされた本件競売手続に対する配当要求は、本件仮処分に後れた昭和四四年一〇月二七日になされているのである。そして、訴外成沢らの右配当要求は、要するに丙地の売得金を取得しようというものであるから、本件仮処分の債権者である原告の被保全権利(丙地の所有権)の保全と相容れないものであることは明らかであり、訴外成沢らの右配当要求は原告の本件仮処分に対抗できないものといわなければならない。したがって、競売裁判所としては、右配当要求にかかる別紙債権表4ないし11記載の債権はこれを要配当債権として扱うべきではないのである(大審院昭和八年(ク)第一八一号同年四月二八日決定民集一二巻八八八頁参照)。
そして、本件競売手続の執行費用は五二万〇一三五円であるから、結局、右費用と本件競売手続において別紙債権表1ないし3記載の債権に対する配当分として訴外稲村、同筒井に配当された二八六万三七三三円とを合算した三三八万三八六八円が、本件競売手続による売得金より支払われるべきこととなる。
(2) 一方、本件競売手続における配当財源としては、既に前競売における訴外斉藤半九郎の競買保証金二九〇万円が存していたのであるから、これをまず、右(1)の支払を要する費用及び債権に充当すると、その残額は四八万三八六八円となり、右残額に対する配当にあてるためには、丙地の山林三筆のうち別紙物件目録(三)3記載の土地に対してのみ競落を許可すれば足り(右の土地の売得金は一七〇万円であるから、これを右残額に充当すると一二一万六一三二円の剰余金を生ずる。)、丙地のうちその余の別紙物件目録(三)1及び2記載の各土地に対する競落を許可すべき必要はなかったのであるから、担当裁判官としては右の各土地に対する競落許可決定をすべきではなかったのである。
(3) しかるに、前記のとおり、本件競売手続を担当した金子裁判官は、右の点についての解釈を誤り、漫然別紙物件目録(三)3記載の土地のみならず、同目録(三)1及び2記載の各土地に対する競落をも許可する旨の本件競落許可決定をしたのであるから、本件競落許可決定は同目録(三)1及び2記載の各土地に対する競落を許可した限度において違法というべきであり、これにつき同裁判官には過失があったものというべきである。
(二) また前記のとおり、昭和四六年一二月二四日の本件競売手続の配当期日においては、訴外成沢ら配当要求債権者に対する配当金八三一万六一三二円については、配当実施が留保され、右金員は麻生支部に保管されていたのであるが、右3(一)(1)に述べたとおり訴外成沢らの別紙債権表4ないし11記載の債権は要配当債権として扱うべきではなかったのであるから、担当裁判官としては同支部に保管されていた右金員を訴外成沢らに交付すべきでなかったにもかかわらず、担当の石崎裁判官は右の点についての解釈を誤り、漫然右金員を昭和四九年三月一一日、一二日の両日にわたり訴外成沢らに対し交付したものであるから、右の交付は違法というべきであり、これにつき同裁判官には過失があったものというべきである。
4 (被告の責任)
金子裁判官、石崎裁判官はいずれも被告の公権力の行使に当る公務員であり、右裁判官らのなした本件競落許可決定及び配当金の交付は、いずれも右裁判官らがその職務を行うについて過失によりなした違法な行為であるから、被告は、国家賠償法一条により、原告が被った後記損害を賠償すべき責任がある。
5 (損害)
(一) 土地所有権の喪失による損害 七二四二万八八六八円
原告は、その所有する別紙物件目録(三)1及び2記載の各土地(合計地積五三八三平方メートル)の所有権を、本件競落許可決定により喪失したが、右各土地の価格を最高価格時である昭和四七年三月一日当時の一平方メートル当り一万五〇〇〇円の割合で算定するとその額は八〇七四万五〇〇〇円となり、原告は同額の損害を被ったことになるが、後記のとおり、原告は被告に対し本件配当留保分相当の損害賠償請求権を有しているから、これを右金額から控除すると、結局原告の被った損害額は七二四二万八八六八円となる。なお、原告が右各土地を最高価格時に売却することができ、これにより最高価格相当の利益を取得することができたことは、本件競落許可決定の際予見可能であった。
(二) 配当金交付による損害 八三一万六一三二円
本件配当留保分は、本来、丙地の所有者である原告に交付されるべきものであるところ、前記のとおり訴外成沢らに交付された結果、原告は右金員相当の損害を被った。
6 (結論)
よって、原告は被告に対し、右5の損害のうち七二四二万八八六八円並びに内金六九〇四万五〇〇〇円に対する本件不法行為の行われた日以後であり、訴状送達の翌日である昭和四九年六月二二日から、内金三三八万三八六八円に対する本件不法行為の行われた日以後であり、請求拡張の意思表示が被告に到達した日以後である昭和四九年一一月二七日からそれぞれ支払済みまで、民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1の事実のうち、原告が訴外佐久間を被告とする甲地についての所有権移転登記手続を求める訴を提起したことは認める。その余の事実は知らない。
2(一) 請求原因2(一)の事実は認める。なお、(一)の強制競売開始決定には、丁地も含まれている。
(二) 請求原因2(二)の事実のうち、甲地が乙地及び丙地に分筆されたこと(但し、その分筆登記は訴外稲村の申請にかかる昭和三三年七月二九日付強制競売開始決定に基づく強制執行実施のための代位登記としてなされたものである。)、原告が本件仮処分の申請をし、これに基づき仮処分命令が発せられ、その記入登記がされたことは認める。その余の事実は知らない。
(三) 請求原因2(三)の事実は認める。
3(一) 請求原因3(一)のうち、原告主張のいわゆる過剰競売が違法な競売手続であることは認めるが、本件競落許可決定が過剰競売として違法な競売手続であり、担当裁判官に右決定をするにつき過失があるとの主張は争う。本件競落許可決定は次に述べるとおり適法であり、したがって担当裁判官には何らの過失もない。すなわち、
(1) 本件競売手続において配当に加えるべき債権は、執行費用(五二万〇一三五円)、別紙債権表1ないし11記載の債権(元本合計額一四四七万円)及びこれに対する配当期日までの利息・遅延損害金である。
(2) 一方、本件競売手続における配当財源は、丙地の競売代金八八〇万円及び競買保証金二九〇万円の合計額一一七〇万円であるから、右配当財源をもってしては、到底右(1)の執行費用並びに請求債権及び配当要求債権の元本のみをも弁済するに足りないことは明白であり、したがって本件競落許可決定は原告の主張するような過剰競売にはあたらず、適法な手続であるといわなければならない。
(3) 原告は別紙債権表4ないし11記載の債権は、その配当要求が本件仮処分に後れてされているのであるから、本件仮処分に対抗できないものであり、右の配当要求債権を要配当債権として扱うべきではない旨主張する。しかしながら、甲地に対する強制競売開始決定が本件仮処分に先行していることは原告の自認するところであり、本件の右のような経過においては、競売開始決定後の処分禁止の仮処分によっては競売手続は停止されないと解される。したがって、競売手続が進行する場合、強制競売手続においては、競売申立人の債権が配当要求者の債権に優先することはありえないから、結局、競売申立人及び配当要求者の全債権をもって請求債権として、競売裁判所はこれに見合う競売物件を定めることになるのであるから、本件仮処分以後の配当要求は許容すべきでないとの原告の前記主張は失当である(原告の引用する判例は、処分禁止の仮処分が先行し、次いで競売申立があったという事案であり、事案を異にする本件には適切でない。)。
(二) 処分禁止の仮処分後の配当要求は許容されるべきではないとの原告の主張が、本件のような事案においては失当であることは既に述べたとおりであるから、訴外成沢らの配当要求債権者に対し、配当表記載のとおり本件配当留保分を交付した石崎裁判官の手続にも何ら違法な点はない。なお、本件競売手続の配当期日において、配当金の一部の配当を留保した事情は次のとおりである。原告は、本件仮処分を得た後、更に、本件の競売手続費用及び申立債権者に対する配当を除く配当受領禁止仮処分決定を得て、その旨麻生支部に通知した。ところが、原告はその後昭和四六年二月一六日右の配当受領禁止処分を取り下げたので、競売裁判所としては、配当期日には全債権者に対し配当表に従って配当することが可能となったのであるから、全額について配当すべきところ、担当官において本件仮処分と右の配当受領禁止仮処分とを誤解したため、配当要求債権者に対する配当を留保し、その旨を配当表に記載したものである。その後、右配当留保分を訴外成沢らの配当要求債権者に交付したことは原告の主張するとおりである。
4 請求原因4の事実のうち、金子裁判官、石崎裁判官がいずれも被告の公権力の行使に当る公務員であることは認め、被告に損害賠償責任があるとの主張は争う。
5 請求原因5は争う。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因1の事実のうち、原告が訴外佐久間を被告とする甲地についての所有権移転登記を求める訴を提起したことは当事者間に争いがない。右の当事者間に争いのない事実と《証拠省略》を総合すると、昭和三六年一一月三〇日ころ原告(買主)と訴外佐久間(売主)との間に、甲地、丁地ほか数筆の土地(いずれも山林)について代金一〇〇万円をもって売買契約が成立し、これにより原告は右の各土地の所有権を取得したこと、右の売買代金は昭和三七年七月一〇日ころまでに数回にわたる弁済等により決済されたこと、原告は訴外佐久間を被告とする右の各土地についての所有権移転登記手続を求める訴を提起し、控訴審において原告が勝訴の判決をえたので訴外佐久間が上告したところ、昭和五〇年一一月九日、訴外佐久間の右上告は棄却され、原告勝訴の右判決が確定したことをそれぞれ認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
二1 請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがない。(なお、弁論の全趣旨によれば、訴外初田修は甲地のほか丁地に対しても強制競売の申立をし、麻生支部の担当裁判官は丁地に対しても強制競売開始決定をしたことを認めることができる。)
2 請求原因2(二)の事実のうち、甲地が乙地及び丙地に分筆されたこと、原告が昭和四一年二月甲地について訴外佐久間を債務者とする本件仮処分を東京地方裁判所に申請し、同裁判所は同月一八日仮処分命令をなし、同月一九日嘱託によるその記入登記がなされたことはいずれも当事者間に争いがない。
3 請求原因2(三)の事実は当事者間に争いがない。
三 そこで、右に認定した事実及び当事者間に争いのない事実に基づいて本件競売手続の違法性の有無について検討することとする。
1(一) 原告は、まず、いわゆる過剰競売は違法な競売手続というべきところ、本件競売手続においてなされた丙地の山林三筆に対する本件競落許可決定は、処分禁止の仮処分の記入登記後には配当要求を許すべきではないにもかかわらず、本件仮処分の記入登記後に配当要求のあった訴外成沢らの配当要求債権を要配当債権と誤認してなされたものであり、丙地の山林三筆のうち別紙物件目録(三)1及び2記載の各土地に対する競落を許可した限度で、いわゆる過剰競売にあたる違法な競売手続であると主張する。
(二) 不動産強制競売手続において、数個の不動産を競売に付した場合に、その中の一部の不動産の競売代金をもって、執行費用及び各債権者の債権を弁済するに足るときは、残余の不動産に対しては、競落を許可すべきではない(民訴法六七五条一項)から、右の制限に違背した競落許可決定はいわゆる過剰競売として違法な競売手続というべきである。
(三) そこで、本件競落許可決定が右のいわゆる過剰競売に該当するか否かについて判断する。
(1) 原告は、訴外成沢らの配当要求は、原告の本件仮処分の記入登記後になされたものであるから、本件仮処分に対抗できず、したがって訴外成沢らの配当要求債権はこれを要配当債権として扱うべきでないと主張する。
おもうに、不動産に対する強制競売開始決定の記入登記後に執行債務者から右不動産の譲渡を受けた者が、その所有権を保全するため、右不動産に対し処分禁止の仮処分を得てその記入登記を経た場合、右仮処分は強制競売手続の進行を阻止する効力はもとより、競落の効果を左右する効力を有しないことはいうまでもなく、また、不動産に対する強制競売手続においては平等主義が採られており、他方、処分禁止仮処分は仮処分債権者に対しその被保全権利について優先的地位を与えるものではないから、譲受人が譲受不動産の所有権取得につき登記を経由する前に右執行債務者の債権者が配当要求をしたときには、配当要求債権者は執行債権者と同一の地位に立つものと解すべきである。本件においては、前示のとおり、訴外成沢らの配当要求は原告の本件仮処分の記入登記後になされたものであるが、本件競売手続は訴外初田修の甲地等に対する不動産強制競売の申立に基づく強制競売開始決定により開始され、右開始決定の記入登記後に原告の甲地に対する本件仮処分の記入登記がなされたものであり、また、原告の丙地に対する所有権取得登記が訴外成沢らの配当要求前に具備されたことは、原告の主張立証しないところであるから、訴外成沢らの配当要求が原告に対抗できないということはできず、この点についての原告の主張は失当である。
(2) そうすると、《証拠省略》によれば、本件競売手続における配当財源は丙地の競売代金八八〇万円及び競買保証金二九〇万円の合計一一七〇万円であり、一方、弁済することを要する執行費用は五二万〇一三五円、執行債権及び配当要求債権は別紙債権表1ないし11記載の債権(元本合計額一四四七万円)及び右各債権に対する配当期日までの利息・遅延損害金であることが認められるから、右の丙地の競売代金及び競買保証金によっては右の費用及び債権を弁済するに足りないことは明白であり、本件競落許可決定が民訴法六七五条一項に違背するいわゆる過剰競売に該当するものでないことは明らかである。
2 次に、原告は、石崎裁判官が訴外成沢らの配当要求債権者に対し本件配当留保分を交付したことは、本件仮処分後の配当要求として本件仮処分に対抗できず、その結果配当に加えるべき債権ではないにもかかわらず、訴外成沢らの配当要求債権を要配当債権と誤解したことによる違法な手続である旨主張するが、本件仮処分によっては訴外成沢らの配当要求を排斥することができないことは右1(三)(1)に述べたとおりであるから、訴外成沢らの配当要求債権を要配当債権として扱ったことについて原告の主張するような違法はなく、したがってこの点に関する原告の主張もまた失当というべきである。
3 なお、不動産強制競売手続において、競売開始決定後、目的不動産の所有権が債務者から第三者に譲渡され、それにつき所有権移転登記が経由された場合には、以後右競売手続への記録添付、配当要求は許されないものと解すべきところ、本件においても本件競売手続の目的不動産である丙地の所有権が、競売開始決定後、債務者訴外佐久間から原告に譲渡されたことは既に認定したとおりであるが、原告が右所有権移転について訴外成沢らの配当要求以前に移転登記を経由したことについては、原告の主張、立証しないところである(前記認定事実によれば、少なくとも訴外成沢らの配当要求前には、原告は右移転登記を経由していないことが推認できる。)。
4 以上によれば、本件競売手続には原告の主張するような違法はなく、請求原因3の原告の主張はいずれも失当というべきである。
四 そうすると、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 柏原允 裁判官 柴田保幸 志田洋)
<以下省略>